膵臓がん患者さまにおすすめの食事療法『ケトン食』の効果とは?

がんにおいて、食事療法が治療の補助として重要な役割を果たすことがわかってきています。
中でも糖質制限食と高脂肪食を組み合わせたケトン食療法は、肝臓でのケトン体生成を促す食事療法になりますが、がんやてんかんなどの治療に効果が発揮されると考えられています。
本記事では、ケトン食療法のメリットや注意点、研究結果について詳しく解説します。

がん治療としてケトン食療法を取り入れるメリット

ケトン食療法は、糖質制限食、高脂質の食事によってケトーシス(ケトン体が血中に増加した状態)を引き起こします。
これによりがん細胞のエネルギー供給を変え、炎症を減少させるなど、いくつかのメリットがあります。
ここでは、ケトン食療法のメリットをご紹介します。

がん細胞のエネルギー源を制限する

ケトン食療法では、炭水化物を大幅に削減し、代わりに脂質の摂取を増やします。
これにより、体がケトン体を主なエネルギー源として使用するようになります。
がん細胞は、正常細胞と異なり、ケトン体を効率的に利用できないため、この代謝の変化によってがん細胞のエネルギーの利用に不調がきたし、がん細胞の成長と広がりを抑制する効果が期待できます。

全身の炎症を減少させる

ケトン食療法のもう一つのメリットは、全身の炎症を減少させる効果が期待できることです。
炎症はがんの成長と広がりを促進する要因となります。
炎症は免疫を抑えることから、発がんのきっかけになります。ケトン体には、直接的な抗炎症効果があり、免疫細胞であるマクロファージからの炎症性サイトカインの産生を抑制することがわかっています。
炎症性サイトカインが抑えられると、がんと戦う免疫も向上します。
炎症の尺度として血中CRP検査がありますが、それが正常値であれば、ケトン体が正常に作用していて、全身の炎症が抑えられているとも言えます。
高脂質で低炭水化物の食事によって作られるケトン体が重要な働きをしているのです。
また、ケトン食療法を活用したダイエットによる研究結果について、記事の最後にご紹介します。

がん治療とケトン食療法の位置付け

さまざまながん治療に対して、ケトン食療法はどのように位置づけられるべきでしょうか?
プレシジョンクリニックグループでは、ケトン食療法を免疫療法や分子標的薬治療、放射線治療の効果を高めるための基盤となる栄養療法と位置付けています。
ケトン食療法単独では、がん細胞の増殖を抑制する効果は限定的ですが、日常生活で取り組むことでそれぞれの治療効果を高める可能性があり、軽視できません。
マウスの研究においても、ケトン食のみではがんそのものを小さくすることは難しいことが示されています。
しかし、抗がん剤や放射線治療と併用すると、ケトン食は相加相乗的な効果を発揮することが確認されています。
特に当グループは免疫療法を主軸とした治療を行っており、炎症を抑えることで免疫療法の効果を高めることが期待できます。
ケトン食療法のがんや免疫に対するメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、がん治療に対して効果が期待できる食事療法であることは間違いありません。

ケトン食におすすめの食材

ケトン食療法に適した食材は、高脂質で低炭水化物なものが該当します。
以下の食材がおすすめです。

  • アボカド
  • ナッツ類(アーモンド、マカダミアナッツなど)
  • ココナッツオイル
  • オリーブオイル
  • 魚(鮭、鯖など)
  • 全脂肪の乳製品(クリーム、バターなど)
  • 緑葉野菜(ケール、ほうれん草など)

上記の食材はケトーシス状態を促進し、体がケトン体を効率的に生成するのを助けます。
これらの食材を組み合わせて食事に取り入れることで、ケトン食療法の効果を最大限に引き出せます。

食事療法としてケトン食療法を行う際の注意点

ケトン食療法をがんの食事療法として取り入れる際には、次のポイントに注意しましょう。
ケトン食療法は、てんかんの治療で保険適応となっており、比較的安全な食事療法です。

下痢

脂質(オイル)の摂取に伴う下痢が発生することがありますが、体質を徐々に変えていくことで、約1か月程度で下痢が改善されます。
オイルの摂取による下痢では、過剰な脱水や急激な体重減少、筋肉の喪失は起こりません。
したがって、下痢によって重大な問題が発生することはありません。

薬剤性障害

複数の薬剤を服用している患者さまでは、貧血や血小板減少、肝機能障害など、服用中の薬剤の副作用が現れることがあります。
体質が改善されるに伴い、薬の減量などを検討していきます。

糖質中毒

ケトン食療法の開始から特に最初の2週間は、糖質中毒の症状が出やすいです。
不合理な理由を挙げて糖質の食事を摂ろうとしたり、「オイルは自分に合わない」と言い出して本療法を拒否する患者さまもいます。
糖質中毒の症状が強い方でも、1か月を過ぎると体質が改善され、本療法にも慣れてきます。
したがって、3か月間はしっかりと取り組んでいただくことが重要です。

ご家族さま・関係者の協力

本療法はあくまで療法であり、患者さまおよびご家族さまの嗜好に合わせた食事ではありません。
3ヶ月間の療法に集中し、修行のように淡々と取り組むことが求められます。

膵臓癌に対するケトン食療法に関する研究結果

2023年のがん治療学会で、防衛医科大学外科教室から膵臓がんに対する食事療法の研究報告がありました。
術後の膵臓がん再発後にケトン食療法のみで病状の進行が9ヶ月間制御された症例をご紹介します。

ケトン食療法で期待できる効果

ケトン食のメリットについては先にご紹介しましたが、ここではケトン食を活用した膵臓がんに対して期待できる効果について改めて解説します。
主に以下の点が挙げられます。

エネルギー供給の変化

ケトン食療法では、炭水化物の代わりに脂質から生成されるケトン体が重要なエネルギー源となります。
がん細胞はこの状態でエネルギー不足に陥り、増殖や生存に必要なエネルギー供給が制限される可能性があります。

酸化ストレスとアポトーシス

ケトン食療法は、細胞の酸化ストレスを増加させ、がん細胞に対するアポトーシス(細胞死)を誘導する可能性があります。
これにより、がん細胞の生存と増殖が制約されると考えられています。

免疫系の活性化

ケトン食療法が免疫系を活性化し、がん細胞に対する免疫応答を向上させることが報告されています。
これにより、体内のがん細胞への攻撃が強化され、腫瘍の制御が促進される可能性があります。

本研究の結論:ケトン食で術後膵臓がんの再発患者さまに対して9ヶ月間病状の制御に成功

ケトン食療法のみで9ヶ月間病状を制御できた再発術後膵臓がん患者さまの症例研究でした。
化学療法とは異なり、ケトン食療法は通常、抗がん剤のような細胞毒性による有害事象のリスクを伴いません。
厳格に適用されれば、より耐容性があり、腫瘍の進行を抑制するのに効果的である可能性があります。

一方で、膵臓がんの場合、食事自体が困難な方も少なくありません。
個々の患者の状態(ステージ)、食べ物の嗜好によってハードルが異なるため、事前の治療計画が必要です。
当グループではケトン食療法を含めた個別のがん治療計画を提案しています。
プレシジョンクリニック東京院長 矢﨑監修

【監修者】矢﨑 雄一郎

東海大学医学部を卒業後、消化器外科医として医療機関に従事したのち、東京大学医科学研究所で免疫療法(樹状細胞ワクチン療法)の開発に従事。現在はプレシジョンメディカルケア理事長として活躍中。専門分野は免疫療法及び消化器外科。著書『免疫力をあなどるな!』をはじめ、医学書の執筆も手がけ、医療知識の普及にも貢献。免疫療法の開発企業であるテラ株式会社の創業者。

略歴:

1996/3

東海大学医学部卒業

1996/4

東海大学附属病院消化器外科勤務

2000/11

遺伝子解析企業ヒュービットジェノミクス株式会社入社

2003/4

東京大学医科学研究所 細胞プロセッシング寄附研究部門研究員

2004/6

テラ株式会社設立 代表取締役社長

2010/1

株式会社アドバンスト・メディカル・ケア 取締役

2012/3

テラ株式会社代表取締役社長 社長執行役員

2013/3

テラ株式会社代表取締役社長

2013/5

タイタン株式会社 取締役(現任)

2014/1

テラファーマ株式会社 代表取締役社長

2014/2

株式会社オールジーン 代表取締役社長

2014/8

テラ少額短期保険株式会社 取締役会長

2015/12

株式会社オールジーン 取締役

2016/6

株式会社オールジーン 代表取締役社長

2016/10

テラファーマ株式会社 代表取締役会長

2017/3

テラ株式会社代表取締役社長CEO

2019/4

医療法人社団プレシジョンメディカルケア理事

2019/10

プレシジョンクリニック神戸院長

専門分野:
一般外科・消化器外科

著書:
著書『免疫力をあなどるな!』